新潟県全域。 特に魚沼市・南魚沼市・十日町市の棚田、 燕三条の金属工場の井戸、 佐渡島の海沿いの田んぼ、 そして雪深い長岡・小千谷・柏崎の集落の屋根の境目。
双子の妖怪。 1 体は稲穂の形 (背丈は腰くらい、 黄金色)、 もう 1 体は水滴の形 (背丈は腰くらい、 透明)。 必ず 2 体一緒に出てくる。 動く時は手をつないで、 田んぼと屋根の境目を歩く。
時刻は新米の朝 5 時 38 分から 6 時 24 分の間、 雪解けの春の昼下がり 13 時 14 分から 14 時 49 分の間、 そして冬の夜の蔵の周り 21 時 8 分から 22 時 22 分の間。 場所は棚田の畦道、 古い酒蔵の杉玉の下、 雪の積もった集落の家と家の間の細い道、 そして 「今日のご飯はまだか」 と火を見つめた人の台所の窓辺。
新潟のお米と新潟のお水を、 同じ食卓に同時に並べる。 ご飯を 1 口、 お水を 1 口、 順番に味わう。 その間に 「同じ土から来たんだね」 と心で 1 言つぶやくと、 双子のあいさつは台所の窓ガラスに 2 つの小さな影として映る。 ご飯と水の両方を飲み込んだ瞬間、 双子は手を離して、 1 体は稲穂のように家の梁に登り、 もう 1 体は窓の外の井戸に滑り込む。
翌朝、 蛇口をひねった水の最初のひと粒が、 ほんの少し甘くなっている。
米と水のあいさつは、 雪解け水が信濃川と阿賀野川の流域を潤して、 そのまま田んぼに入って米を育てる、 という新潟の長い水と米の関係を、 双子の形に集めたもの。
双子は、 自分たちが 2 体で 1 つだと知っている。 米だけでは育たない、 水だけでは食べられない。 双子の手が離れるのは、 食卓で人がご飯と水を一緒に味わった時だけ。 そして、 食卓を離れるとまた手をつないで、 次の田んぼへ歩いていく。
雪が降り積もる長い冬は、 双子は古い酒蔵の中で杉玉の影に身を寄せて眠る。 雪解けの最初の風が吹く朝、 双子はまた手をつないで田んぼへ向かい、 「お久しぶり」 と互いに小さく頷く。