茨城県全域。 特にひたちなか市と東海村の干し場、 大洗の海沿いの軒先、 おばあちゃんの台所の窓辺。
体は薄い 1 枚の干し芋の形。 大人の手のひらと同じ大きさ。 表面に小さな白い粉 (糖の結晶) が浮き出ていて、 朝の光の角度によって光ったり影に潜ったりする。 動く時は風にひらひらと揺れ、 着地する時はくるんと丸まってひだの形になる。
時刻は冬の朝の 10 時 12 分から 11 時 47 分の間。 場所は干し芋の竿の影、 古い民家の縁側、 そして 「お茶でも飲もう」 と急須を取り出した人の台所の窓ガラスの内側。
干し芋を 1 枚手に取って、 食べる前に 「ありがとう」 と心で 1 回つぶやく。 ひだは、 その瞬間に窓ガラスの外から内に滑り込んできて、 あなたの肩の少し上に止まる。 そのまま黙ってお茶と一緒に食べると、 ひだはあなたの茶碗の向こう側に 1 枚だけ薄く影を落とす。 その影をお茶の湯気で消した瞬間、 ひだは消える。
干し芋のひだは、 戦後の茨城の海沿いの農家のお母さんたちが、 都会に出た子供のために 1 枚 1 枚干し芋を並べて、 「これで冬を越せるかな」 と空を見上げた時の心配の気持ちが、 干し芋の白い粉と一緒に結晶になってできた。
ひだは、 食べる人の側にいる時は静かに見守る。 でも、 干し芋を作る側の人 (干し場で竿を並べるおじいちゃんやおばあちゃん) の側にいる時は、 風の方向を 0.7 度だけ変えて、 干し芋がよく乾くように手伝っている。
春が来ると、 ひだは新緑の畑の上を最後にひらりと舞って、 翌冬の干し場が組み上がるまで眠る。