愛知県全域。 特に名古屋駅前の地下街のレトロ喫茶、 栄の老舗の喫茶店の朝、 大須の路地の珈琲店、 一宮と豊橋の駅前の昭和の喫茶店、 そして犬山と岡崎の小さな町の朝のカウンター。
身長は 70 cm くらいの小人型。 体は厚切りトーストと茹で卵とコーヒーの蒸気が絡み合った形。 腰に小さな白いエプロンを巻いていて、 そこから小袋の小倉あんが時々顔を出す。 動く時はカウンターの上を 5 秒だけ滑空する。
時刻は朝の 7 時 12 分から 9 時 47 分の間 (モーニングの時間帯)、 そして夕方の閉店前の 17 時 38 分から 18 時 22 分の間。 場所はレトロ喫茶のカウンターの奥の鏡の前、 厚切りトーストが運ばれる時の蒸気の中、 茹で卵の殻が割られる音の周り、 そして 「コーヒーをもう 1 杯」 と店主に頼んだ客のカップの底。
名古屋の喫茶店で、 モーニングを頼む時に「いつものでお願いします」 と言ってみる。 初めての店でもよい。 店主が「初めてだよね」 と笑顔で返したら、 喫茶店のモーニングがあなたのカップの後ろから現れて、 小袋の小倉あんを 1 つだけテーブルに置く。
その小倉あんを、 トーストに少しだけ塗って食べると、 喫茶店のモーニングは満足げに頷いて、 カウンターの奥の鏡の中に消える。 翌朝、 別の喫茶店に入った時、 あなたは「いつものでお願いします」 と自然に言える。
喫茶店のモーニングは、 戦後の名古屋で「コーヒー 1 杯の値段で朝食まで付ける」 という独特の文化を作った喫茶店主たちの「お客さんを家族のように迎える」 気持ちが、 何十年もの間にトーストと卵とコーヒーの蒸気と一緒に集まってできた。
モーニングは、 自分が「サービス」 ではないことを誇っている。 「サービスは値段の問題、 でも私は値段の話ではない。 朝、 起きてきた人を家族のように迎える、 という気持ちの形」 と知っている。
喫茶店が閉店する日に、 モーニングはそのカウンターの前で 1 度だけ深く頭を下げて、 別の生きている喫茶店のカウンターに飛び移る。 だから、 名古屋の喫茶店のどれかが閉まっても、 モーニング自体は減らない。